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平山瑞穂/全世界のデボラ

妄想と現実の区別なんか、ないんです、はじめから最後まで。


デビュー後5年となる著者初の短編集。SFマガジン掲載の六篇+書き下ろし一篇からなる全七篇。
この、掴みきれないもどかしさ、得体の知れない不気味さまでもが渾然として胸を打つ感触はまさに『ラス・マンチャス通信』のそれに同じ。出来るなら見ずに、触れずにおきたい"異質なもの"とソレを排斥しようとするヒトビトの"敵意"に近しい意識とが共鳴して空間を歪ませる『野天の人』を皮切りに、心地良いんだか悪いんだかワカラナイ独特の磁場に呑み込まれる。友達以上不倫未満、といった曖昧な関係の"僕"と人妻の塔子が、曖昧な動機のまま曖昧な存在の湖を訪れる『十月二十一日の海』での割り切れない光景は、その設定こそ書きようによってはダークな質感のファンタジーとしても昇華できそうなものながら、実際の読中には昇華とは程遠い、非常にボヤけた感触に苛まれる。背徳と背中合わせの関係、ゆえに漂う独特の昂揚感は表題作『全世界のデボラ』でも同じ。幼少期の記憶を辿る形で"悪意"という名の化け物がグルリと世界の表裏を入れ替える『棕櫚の名を』でのその場にくずおれて吐きそうになる感覚、読みようによっては、物理的に"弱い"立場にあるモノたち(全身麻痺の夫/伐り倒される樹木)の"理不尽"な反撃とも見える『精を放つ樹木』など、ハッキリと掴めないが確実にナニかに心が囚わる感覚はこの作者ならでは。輪郭が曖昧にボヤけているからこそ、逆にそこに世界の深みを感じさせられるような作品群。少し異質なのが『均衡点』で、なんだかたまにTVでやっている"秘境とニッポン 交換生活"を思わせる展開でわりとしっかりとしたオチも用意されている。また唯一の書き下ろし作『駆除する人々』では、悪魔vs人間というこれまたキャッチーな設定ながら、こちらではやはり"不条理"や"割り切れない"感覚こそが強く印象に残った。完結させぬまま放り出したような作品が多い、という意見もあったが、個人的には著者特有の、このなんともいえない不安定感を様々な角度から味わえる、かなりの快作だと思った。 

塔子、と僕は大声で呼んだつもりだったが、なぜかその声は夢の中で叫ぶときのように手ごたえが甘く、かわりに彼女がいささかの躊躇もなく鉄板の上に両足を繰り出すせわしない音ばかりが、耳障りな倍音によって輪郭を曖昧にしながら轟きわたっていた【十月二十一日の海】


『ラス・マンチャス通信』の感想は→コチラ
『忘れないと誓った僕がいた』の感想は→コチラ
| かっつん | 23:32 | comments(2) | - | pookmark |
Comment
こんばんわ!
お久しぶりです。

お兄さんが脱退しましたね。
かなりショックです。
記事とは関係ない話ですいません。
Posted by: なすび |at: 2009/09/04 6:33 PM
なすびさん

まだ詳しいところまで情報を追えてないんですが、なんとなく2,3年もすれば元の鞘に収まってるような気が。。
Posted by: かっつん |at: 2009/09/09 11:59 PM








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