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平山瑞穂/ラス・マンチャス通信

これは悪夢だなぁ。悪夢悪夢悪夢悪夢・・・
傑作。異常な吸引力と読後に残る強烈なインパクトが図抜けている。就寝前に読み進めていたんだが、さながら眠りに落ち込む快楽と、その落ちざまに非現実的でオソロシイ出来事へ次々と対峙させられるようなストレスを同時に体感。平山氏のデビュー作にして、第16回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。五章構造の連作短篇が、そのマウントによって正体不明の重み・圧力を増してくるサマが異様だ。完成されている。そして面白い。

始終に渡って「僕」の視点から展開される不穏な物語は、両親、姉と共に暮らす「僕」が、姉を犯そうとした"アレ"を始末する『畳の兄』から始まる。話の骨格としては(おそらくなんらかの障害を負っていた?)兄を殺してしまった「僕」が、しかるべき更正施設へ入れられたのちに出所し、どこか遠く離れた町々で"やり直していく"過程が描かれているのだが、その全像は意図的に、きわめて不鮮明な幻想でマスクされている。

異常な嫌悪感を催す「アレ」の存在や、その畸形を強く印象づける「陸魚」なる生物、あるいは土俗的な恐怖を煽る「次の奴」や人の子を喰らう「鬼」といった超常的存在から、真っ黒なモヤモヤに覆い尽くされた胡乱(うろん)な登場人物らまで、背後に強い象徴や隠喩を推測させる世界は、しかし最後までそのヴェールを剥ぎ取ることが叶わぬままに進められていく。どれだけ読み進めようが、家族を含め取り巻く人物らには常に、黒いシルエットのみで顔の部分には"?"が付されているような曖昧な感触が付き纏う。作中ある人物に対して「僕」が、のっぺらぼうで、はっきりと定義できない。そのくせ影のようにいつまでも執拗につきまとう存在と形容する記述が出てくるが、この感覚はそのまま本作に対するイメージにも折り重なる。夢の中で"恐ろしい何か"に追われて逃げるも、まるで水中にいるかのようにしか足が進まないもどかしさを覚えることがあるが、今作にはそれとも似た、一種やり切れない感覚を覚える。絡みつくそれを"不条理"と捉えるなら、今作に対する「カフカ(不条理)+マルケス(リアリズム)+?」という形容も納得か。本作は"幻想小説"ではあるが、その幻想に安穏とできる箇所はほとんど無い。抽象的な幻想でマスクすることで、かえってその背後に救い難い現実を感じさせるというか。

と、作品に対する思考が同じトコロを廻り始めたため強制終了。とにかく、面白い。非常に稀有な魅力を持った素晴らしい作品だと思った。榎本耕一氏による神秘的な装画も素敵。
| かっつん | 21:45 | comments(0) | - | pookmark |
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