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打海文三 / 裸者と裸者

上巻:孤児部隊の世界永久戦争
下巻:邪悪な許しがたい異端の




久しぶりに「時間作ってでも読みたい」と思わされた、読み出すとまじで止まらなくなる魅力的な作品。舞台は、経済システムの破綻から混沌たる内戦状態に突入した日本。政府軍、地方武装勢力、ゲリラにマフィア、米軍や宗教団体に自警団、、、といった諸々が各地に散開し、出口の見えない戦闘が繰り返される。

上巻では佐々木海人という孤児が主役。7歳11ヶ月で両親を失い孤児となった彼は、幼い妹と弟を「生き抜かせる」ため行動する。弱い者から確実に奪われ犯され殺されていく絶対的な世界において、先の目的を果たすため海人は軍へ入隊し、自らもまた苛烈な環境を生き抜いていく。

この作品の(というより打海作品の、といったほうがいいかもしれないが)魅力は、一方でそうした少年の成長を辿るビルドゥングスロマンの骨格を持ちながら、およそその表層が感情的・感傷的に流されることが無いところ。

瞬きをした次の瞬間に隣人が肉塊に変じていることが日常であるような光景が、只の事実として綴られていくのを見ていると、正義や条理といった概念の脆さや寄る辺なさを否応なく感じてしまう。即ち、そうした定義は結局のところルールの決定者に拠るためのモノであり、何時いかなる時でも、その現実を不条理だと感じる人間は存在するという事実。
下巻で物語の中心に躍り出る月田姉妹は、一切の欺瞞を排して核心へとひた走る。つまりは、破壊。2人で完全に1つの人格を成す双子の姉妹は、己が是とするトコロへ向けて迷いなく突き進む。同じく「戦争をしゅうけつさせる」という点でいったんの着地点を同じくするところがあったとしても、それにより虐げられる者の存在を許容するか否かという点で、佐々木海人と双子の姉妹では決定的に考えを異にしている。海人の行動の根源は、妹や弟を始めとする大切な人たちを「殺させない」そして少しでもよく「生き抜かせる」ことであり、そのために己の全てを投げうっていく。一定の「秩序」が生まれるなら、そのための妥協点に落ち着くことは何らおかしなことではない。対する月田姉妹は、世のあらゆる「不条理」や「差別」を認めない。ある「秩序」が生まれることにより排他される者の不条理性を感じる限り、彼女たちは徹底してその「秩序」を破壊していく。

結局のところ「万人にとって良い世界」なんてナインダヨ?ってことで、各々がそれぞれの価値観に則って行動することは極めて正しい道のような気もしてくる。だけれども、マイノリティの視点から徹底した「正義」を貫徹する双子の姉妹というキャラクターは、現在の世界ではタイトルにあるようにやはり"異端"の存在とみなされるんだろう。心情描写への変な傾斜がないだけに、こうした小賢しい感想含め、色々な読み方の出来る作品だと思うが、それにしてもその設定や人物造詣、透徹した世界観やそれを物語る文体が素晴らしく魅力的で、とにかく面白い!ホントウのような世界を鮮やかに作出する感覚や、どこか劇的な作用をもったキャラ設定など、例えば古川日出男の「サウンドトラック」に似たキャッチーさもあるんだが、一瞬たりとも自分に淫することのないこの硬質な世界観は、孤高の輝きを放っているようにさせ感じられる。なお、本作に続くものとして『愚者と愚者』が刊行されているが、昨年10月に作者の打海氏は他界。この長編大作は未完のまま残されてしまった。後追いで知った身で言うのもなんだが、本当に凄い作家さんだったのだなと、先の『ハルビンカフェ』同様強く感じさせられた。異様に面白い、とかいうと何だか馬鹿みたいだが、とにかく異様に面白かった。

| かっつん | 21:20 | comments(0) | trackbacks(1) | pookmark |
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裸者と裸者(著:打海文三)を読んだ。 2008年度文庫ベスト10の第2位に選ばれた本だそうだ。 日本の近い未来を想定された戦争小説。生臭い人の愚行と性欲などの欲望、そして、正しいかわからない正義が描かれていた。 読み始めの最初、最近書かれた本なのではないか
はやぶちゃの幸せ探し | at: 2009/02/24 1:32 AM

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