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SHOE DOG ―靴にすべてを。/フィル・ナイト


3ヶ月前に読んだ本のことを今さら書いているのはさておき、ナイキといえば今や誰もが知る世界最大のスポーツブランドであり、個人的にもモノゴコロついた頃には既に確固たる地位を築いていたメーカーだということもあって、この本を読んで最初に意外な驚きを覚えたのは、前身となる会社=ブルー・リボン・スポーツ(以下BRS)が設立されたのが1960年代だという、その時代の近しさだった。加えていち市民ランナーの自分からしてみれば、ナイキといえば近年のBREAKING2プロジェクト(そしてもちろんヴェイパーフライ)の印象が強いため、最新鋭のラボで最先端の科学を動員したアプローチを採るといった「完璧」に「研究」「計算」「統制」されたいわば機械的でどちらかといえば無機質なイメージや、膨大なマス・リサーチに基づくデータを基にした商品展開や販促という、つまりはいかにも「大企業」的なアプローチの印象をまず思い浮かべるんだけど、本書にて創業者であるフィル・ナイト自身の手によって振り返られる会社の歴史を読んでみれば、むしろ埃っぽい倉庫や雑多な喧騒、泥臭いまでのガッツや(良い意味で)軍隊的なまとまりを持った仲間との繋がりによって歩を進めてきた極めて「人間くさい」会社だということが分かる。自分たちが売る靴によって、競技者のレベルが、あるいはそれを履く人たちの生活が今よりもっと向上してほしい、そしてそれを作り、売っている自分たちは常にそうした人たちと共に在るのだという精神が凄く良いなと思う。


ちょうど1年ぐらい前にNETFLIXオリジナルのドキュメンタリー『アート・オブ・デザイン』で、エア・ジョーダンシリーズなどを手がけたデザイナー/ティンカー・ハットフィールドのエピソードも観ていたんだけど(このドキュメンタリーはどのエピソードも非常に完成度が高くて面白い!)、その中ではフィル・ナイトの共同創業者であるビル・バウワーマン(フィルの大学時代の陸上部のコーチで、後にオリンピック選手も多数指導する伝説的な存在)が抱いていた競技用シューズに対する尋常でないコダワリについても触れられている。比べてみれば本書においてそうした「靴」というモノ自体を研究し改良していく(職人的、あるいは属人的な)工程に対するスポットはあまり強くない(ナイキを象徴する「エアー」や「ワッフルソール」が誕生するシーンなどはあるけれど)。どちらかと言えば本書が「ビジネス書」のカテゴリーで紹介されているように、フィルが創業した「会社」がどのようにして数多の困難を乗り越え、ついには競合するライバルを打ち負かして「ナイキ」というブランドを確立させていったかという手法やマインド、過程を語る部分に重きが置かれている。


そのヒストリーは波乱に満ちていてドラマチックだけど、もちろんフィル・ナイトは作家ではないため、本書において「小説的」なカタルシスを覚えるような記述はさほど多くはない(それでもその事象だけで十分に劇的だったりするものがたくさんあるけれど)。と同時に執筆時点でフィル自身が80歳手前、既に一つの大きな歴史を築き上げた後の年齢だというのも関係してるのか、変な自分語りや過剰にギラギラしたイヤらしさが無い文体が好印象で読みやすい。


”自分だけのもの、「これを作ったのはぼくだ」と指さして言えるものを作りたい。自分の人生を有意義にする方法はそれしかないんだ。"

 

"みんなに言いたい。自分を信じろ。そして信念を貫けと。他人が決める信念ではない。自分で決める信念だ。心の中でこうと決めたことに対して信念を貫くのだ。"


↑のような言葉は、ジャンルに関係なくきっと多くの人の心に響くだろう。読後感として、これだけの巨大企業にも関わらず、そのイメージが非常に家族的で良くも悪くも人間味に溢れたものに変わって感じられたのが印象的だった。

| かっつん | 20:25 | comments(0) | - | pookmark |
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