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打海文三/ハルビン・カフェ


佐伯の視界の隅で黒っぽいコートがひるがえった。それがこの世で彼が最後に見た景色だった。銃声がとどろいた。コルトガヴァメントの四十五口径の弾丸が、佐伯の鼻骨を砕いて侵入し、脳底動脈を破壊した後、階段の大理石ではね、からんからんと軽い音をひびかせて、どこかへ転がっていった。





福井県の海市、という架空の都市を舞台としたノワール。第5回大藪春彦賞受賞作。最近頭であれこれと考える作業をサボりがちだったので、意図的に複雑そうな作品を選んで読んでみた。


近い未来。福井県にある小都市、海士市。新興の港湾都市であるこの街では以前に中国や朝鮮からの難民の大量流入があり、街は日本・朝鮮・中国・ロシアの諸民族が入り乱れてそれぞれが裏にも表にもコミュニティを構えていた。その結果、凶悪犯罪の発生率が急上昇、それを取り締まる警官の殉死率が日本一に達した。犯罪組織は警官らの家族をもテロルの対象とした結果、下級警察組織の内部には”P”と名付けられた地下組織が発生、報復テロを宣言する。心情的に市民の支持を獲得したPではあったが、腐敗した警察官僚をその標的に加えるなど活動が先鋭化。当然警察内部からもP壊滅の動きが巻き起こり、公安部の暗躍の結果、小川勇樹課長ら二十数名の逮捕者を出してPは表向き壊滅した。しかしPの生き残りによって海市警察の高安部長が三人組によって暗殺される事件が発生、彼らは何の手掛かりも与えないまま姿を消した。そして八年後、東京で殺人事件が発生、その被害者がPのメンバーだったことから警視庁の小久保仁や警察庁の水門愛子監察官など、かつての海市を知る者たちが捜査を開始した。


ストーリーとしてはこんな感じ。推理小説やハードボイルドといった単語はあまり惹かれない部類に入るんだけど、今作に関しては、そういったジャンル関係なしの面白さが感じられた。

余剰を廃したスマートな文体により展開される、緻密な設定と描写。削りしろの無い硬質な文字群が描き出す人間像は、余計な装飾が無いぶん真に迫った魅力でもって惹きつける。複数の組織、様々な形の裏切りが幾重にも交錯するストーリーは、かなり複雑。ちょうど半分ぐらいまで読み進んだ頃に私の拙いオツムは飽和状態に達し、あやうくワケが分からなくなりかけたが、読後に振り返ってみれば、全てがキレイに結びついていることがすんなりと理解できる。随所で発生する刺激的なエレメントによりテンションを保ち続け、加えて先の徹底してクールな文字の積み重ねが、次第に真相を明らかにしていく。最終的に形成される、ある男の神話めいた超越っぷりはだから相当にリアルで、格好良い。興奮した。

作者の打海氏は残念ながら今年10月にお亡くなりになったそうだ。今まで全く知らなかった作家さんだけど、他の作品も読んでみたい思う。
| かっつん | 21:00 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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