Entry: main  << >>
偽りのサイクル 堕ちた英雄ランス・アームストロング


2段組500頁と結構なヴォリュームだったが、台風の一日を利用して一気に読んだ。自分はまだハミルトンとコイル共著の『シークレットレース』は読んでいないのだが、本書はアメリカ人ジャーナリスト/ジュリエット・マッカーが、当時この世界のトッププロの間に蔓延していた違法薬物による気が滅入るような汚染の実態を、ランスと関わりのあった多くの人間たちの証言、あるいは彼自身へのインタビューも含めて追求していくというスタイルで書かれている。
 

違法薬物の摂取を「他のメンバーもしているのだから当然だ」「チームで夕食をとるのと同じ」ように平然と続けながら、あるいはチームのみならずサイクルロードレース界の絶対的な支配者として、自らのをアシストする仲間にも同様のドーピング・プログラムに従うことを脅迫し強制し、加えてそれを「もし世の中が、俺がドーピングしたことでツールに勝ったと思ってるのなら、馬鹿としか言いようがない。俺はいかさまなんてしていない」「スタートラインに立つ200人の選手全員が、ルールを破っていた」と心から信じ公言して憚らないアームストロングという人間の傲岸で攻撃的な性格は、これまで彼の人となりについてほとんど知らなかった自分にとってはなかなかに衝撃的であった。そして何よりも、まるっきりマフィアの麻薬取引のような高度に組織化された薬物摂取の実態には言葉を失う。クリーンな選手はこの世界では絶対に勝てない、と誰もが信じてやまないほどに、多くの選手が違法薬物を接種するか、あるいはこの世界を去るかという二者択一を迫られながら「押しつぶされるようなプレッシャー」に屈してそれらを体内に入れていく。こんなに酷い話はない。
 

アームストロングのドーピングは、ヨーロッパのトップ選手の間に軍備競争を生じさせた。どのチームも、アームストロングがさまざまなドーピング手法を使っていることを知っている。もちろん、血液ドーピングをしていることも。レースを公平な競争の場にするためには、アームストロングだけに有利な状況で走らせるわけにいかない。自分のためにもチームのためにも、ドーピングをしなければならない。
 

周知のとおりランスは、その絶対的な名声と築き上げた財力を巧みに利用しながら、自己に関わる数々の訴訟を勝ち抜き、切り抜けてきた。しかし彼によって「人生を破滅させられた」と感じていた複数の人間たちの"執念"としかいいようのない訴追によって、最終的に彼は過去に得た全ての名誉とその富のほとんどを失い、現状ではスポーツ界から永久追放されることになった。
 

「奴らは有名人である俺を捕まえようとしている、そうすれば、自分たちの存在意義を証明できるからだ。まったく下らない。茶番もいいとこだ。そう思わないか?」
 

ランスが長きに渡って多くの人を欺き裏切り続けた罪は大きいと思うが、同時に、それまで彼の名声に群がり、甘い汁を吸ってきた多くの人間たちが、形勢の不利を悟るやさながら難破船から逃げ出す鼠のように彼から離れ、あるいは手のひらを返して彼をバッシングし、悪いのは全部あいつだ!我々は騙されていた!となるのはこの話に限らないが、どうなのかなとも思う。そして、ランスが言うところの「USADAは大物を捕まえて手柄を立てようとしているだけであり、自分はそのための生け贄になったのだ」という点は、ある部分では事実なのかなとも感じた。サイクルロードレース史におけるこの暗黒の部分の罪全てを、自転車競技のすべての罪をランス一人が背負わされるような図式は公平でないようにも見える。
 

「朝、目を覚ます度に、その日一日、打ち込めるものが何もないことを思い知らされるような人生には耐えられない。僕にとって、トレーニングと競争こそが生きがいだ。僕は楽しいからトレーニングをするんじゃない。そうしなければ試合で勝てないからトレーニングをするんだ。僕は、健康を保つという目的のためだけにトレーニングはできない。レースに出ることがわかっていなければ、トレーニングができないんだ。スポーツは僕の人生のすべてだ。小さいときからずっと試合に出続けてきた。僕はレースがなければ生きていけない。お願いだ。どうかそれを分かって欲しい。」
 

アームストロングは、かつてのアメリカ人たちが信じたような聖者でもスーパーヒーローでもないが、上記の彼の言葉は本書のタイトルCycle of Lies(嘘の輪)にはまりこまない、たぶん真実なんだろうなと思う。



夕方、帰宅してからランへ。たぶん初めてのインターバル的なことをした。2kmの全力走を2本+ジョグ。だいたい3:30/kmで心拍は176あたり。レース用シューズで、下がマッドなコンディションでなければあと10秒ぐらいは短縮できると思うけど、逆に言えば今はそのぐらいが限界。帰りに住吉川沿いを走ろうかと思ったら、増水した濁流でいつも走っている河川敷が水没していた。

| かっつん | 21:30 | comments(0) | - | pookmark |
Comment








Search

管理人運営の音楽サイト

Winterlight
ポストロックを中心に紹介。 轟音・サイケ・シューゲイザーからUK/USインディーまで この辺の音が好きな人は覗いてみてください

ブログランキング参加中

ブログランキング・にほんブログ村へ



Entry

     

Category

Archives

Calendar

      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031     
<< August 2020 >>

Profile

Comment

Trackback

Others

無料ブログ作成サービス JUGEM

Mobile

qrcode