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BORN TO RUN 走るために生まれた ―ウルトラランナーVS人類最強の"走る民族"/クリストファー・マクドゥーガル


以前から気になりつつも放置していた話題の作品を今さらながらに手に取った。これはめちゃくちゃ面白い。表題のとおり、メキシコの走る民族=タラウマラ族が全編通してのkeyになっているのだが、そこから派生する形で、生れながらに「走ること」を本能として持った我々人類=ランニングマンの姿が、様々な切り口から描き出されていく様に興奮させられる。


最近では相当にメジャーになったとは言え、一般にウルトラマラソンやウルトラトレイルといったジャンルは、他の「陸上競技」と比べてその「記録」が公の場で語られる機会が圧倒的に少ないように思う。自分のようにランニングが趣味だと思っているような人間でさえ、このシーンで活躍する人たちのことは数えるほどしか知らなかったりする。本書では、世界最強のウルトラランナーとも言われるスコット・ジュレクを始め、強烈な個性と強さを併せ持った人物が多数登場する。これも本書の中で導き出される推論の一つだが、彼らに共通して見えるのは、走るという行為を、その苦痛すらも含めて愛しているというところ。原始より本能に刻まれた走るという行為を、限りなくそれに近い形で表現できるその強さ、耀きは、記されたその字面を追っているだけでも何か胸がワクワクするような興奮を禁じ得ない。文字通り「今すぐシューズを脱ぎ捨てて」走り出したくなったランナーは自分だけではないはず。およそ人間離れして見える彼らの超人的なパフォーマンスを見ていると、良くも悪くも人間の限界を規定しているのは脳なのだなという思いもあらためて抱く。日本のトップトレイルランナー、ヤマケンこと山本健一さんがよく「野生が目覚める瞬間を待つ」みたいなこと言ってるのもまた、この脳が規定する限界を壊すということなんだろう。


本書では、奇人とも見える一人のウルトラランナーと伝説の走る民族タラウマラ族、そして世界最高峰のトレイルランナーたちが競走するレースを巡るあれこれを軸として、一つの大きな物語が展開する。事実は小説より奇なりと言う言葉のとおり、「マジかよ!?」を連発したくなるエキサイティングな描写の連続に最後まで引き込まれる。と同時に、派生する形で挿し込まれる人間の走るという行為に対する考察は、多分に文化人類学的なアプローチを含んでおり、これがまた非常に面白かった。とにかく引用したくなる記述があちこちに散りばめられた本書だが、最後にその中から一つだけ、決して派手ではないがとても気に入ったそれについて記しておこう。

 

有酸素運動が強力な抗鬱剤であるのはわかっていたが、これほど気分を安定させ――この言葉は使いたくないが――瞑想にふけらせる力があるとは知らなかった。四時間走っても自分のかかえる問題の答えが得られないとしたら、もうその答えが見つかることはない。

 

| かっつん | 21:13 | comments(0) | - | pookmark |
タイトル/表紙絵/構成などから相当数の読者を逃しているように見えるモッタイナイ小説
最近Kindleで購入したハヤカワの2作。共に現在のこのジャンルにおいて有名な作家さんだが、個人的にはどちらも初読であった。

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野尻抱介/ふわふわの泉

これはハヤカワ文庫JA全般に言えることなのかもしれないが、表紙絵が必要以上にライトノベルチックなのだ。ラノベにも面白いモノはあるんだけど、ここでは悪い意味での「軽さ」を連想させるという意味で。加えて小説のタイトルが"ふわふわ"とくるため、その2つの組み合わせから、その実は非常に緻密で精度の高いハードSFのディティールを持った本作の中身を予想することは難しい。深い知識に裏打ちされた物語の骨格と、その中でユーモアをもってイキイキと動く登場人物たち。個人的に知っている作家さんの中では、池上永一氏の著作や中島らもの『ガダラの豚』を読んでいたときと同じようなワクワク感があった。つまりは一大エンターテイメント。カッチリとしながら、どこまでも軽やかで開放感のあるストーリーは、そのままこの小説の核たる夢の素材"ふわふわ"の質感と連結する。

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小川一水/老ヴォールの惑星

対してこちらの短編集は誰が悪いのか、冒頭に配された"ギャルナフカの迷宮"がおそろしくツマラナイことで、立ち読み段階でかなりの読者を逃してしまったのでは?と余計な心配をしてしまう構成。なにせこの"ギャルナフカの迷宮"という話、政治犯として脱出不能な地下牢へと投獄された主人公が、そのアングラ世界において闘い、仲間を作り、自分をこのような境遇へと追いやった体制へ意趣を返していくというような粗筋なのだが、すべてにおいてペラペラなキャラクター造形と世界観、ご都合主義的な展開が組み合わさったその内容は、先ほどの悪い意味での「ラノベ感」をいっそう酷くしたような読書感。かつての書店で平積みになっているからさぞ面白いんだろうと読んでみたら「なんだこの中学生が書いたような酷い文章は!」と愕然とした某山田悠介の著作を彷彿とさせるレベル。

いったいなぜこれにAmazonであんなにもたくさんの高評価が?ひょっとしてあの人たちは全員〇〇なのか?と買ったことを激しく後悔したのだが、実はこの作品、続く表題作からは本当に同じ作者か?と疑ってしまうぐらい作品の質が桁違いに上がる。物語を詳述するのはやめとくが、非常にオリジナリティの高い「SF的」なヴィジョンを持った世界が、それぞれにユニークで刺激的な展開でこちらを引き寄せつつ、そのいずれもが背景に自らが「存在し」「生きる」意味を問いかけるような命題を持って構成されている、といった感じ。それだけになぜ、最初にあんな酷い作品を配置したのか?編集者は〇〇なのか?と思ってしまったのだった。同じく、短編集の最初が非常にマズかったものとしては町田康『ゴランノスポン』が思い浮かぶが気になる人はこちらも是非読んでみたくださいな。


さておき、今朝はローラーで高強度をやるだけのメンタリティがなかったので、代替メニューとして坂道ランへ。今月はほとんど走ってないので脚の疲労感はないのだが、全身にはうっすらと疲労の膜が纏わりついている。そして走っていない分、走力そのものが低下しており、キツいのに遅いという残念な状態。とにかくもできるだけ心拍を上げられるよう、少しでも強度を上げる意識を持って上りを走った。


夜ローラー。短めのインターバルメニュー。やろうかどうか迷ったけど、結果的には気分がスッキリして良かった。
| かっつん | 20:13 | comments(0) | - | pookmark |
意外なところで自転車が本格的だったSF畑の小説
もうblogに感想を書かなくなって久しいが、だいたい週に1冊程度は本を読んでいる。昔と違って媒体が紙ではなくkindleになったり、小説だけではなく雑誌や漫画もたまに読むようになってはいるが、基本的に活字が好きなことに変わりはない。

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最近ハマっているのが藤井太洋という作家さん。この人のことは、津原泰水の作品目当てで買った伊藤計画関連のアンソロジー"NOVA+ 書き下ろし日本SFコレクション 屍者たちの帝国"に収められていた"従卒トム"を読んで初めて知った。適度な質量を備えたスピード感のある文体。一気に読み進められるが、小説の体幹ががっしりしているため浮ついた感じがまったくない。というか、多くのSF作家同様に、様々な分野に跨る専門知識が半端ない。

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"Gene Mapper"では、遺伝子工学に関する相当に深い知識がストーリーの核として存分に機能。でありながら、そんなカッチリとしたSFのボディを持ちつつも「文系読者お断り!」な硬さはなく、むしろそれとは反対の感情のうねりや軽妙なタッチの機微が物語をうまく展開させている。

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今読んでいるのが"UNDERGROUND MARKET"シリーズの3作目"アービトレーター"。まず驚いたのが、背景設定における予言的とも言える描写の的確さ。増税に東京オリンピック、TPPによる輸入作物の拡大や労働力としての移民受け入れなど、現在の、そしてこれから何年後かにはかなりの確率でそうなっているだろう日本の姿を、驚くほど的確に描写している。

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そうそう、予言的な描写といえば、先に読んだ"江波 光則/我もまたアルカディアにあり"が良かった。生活保護制度が究極まで進んだ近未来とも見える「超福祉国家化」した日本を舞台に、アル・ジャンナ一族の一人称で時系列をクロスさせながら物語が語られていく。そこにはある種の異様なリアリズムと迫力があり、加えて抜群のエンターテイメント性も兼ね備えておりめちゃくちゃ面白かった。

話を藤井大洋のUNDERGROUND MARKETに戻すと、意外なところで面白かったのが、登場人物らが移動手段としてロードバイクやブロンプトンなどを使っているところ。そんな設定自体はまぁあるとして、読んでると「この作者、絶対にロードバイク乗りだわ」と分かる描写がどんどん出てきて地味にニヤリとさせられる。30卆茲量榲地まで1時間で行こうと思ったら、だいたい35〜6km/hで巡航しないといけない、とか、貰った月餅を4つに割って、1欠片=100kcalと計算して補給のタイミングを考えたり、あと走行中の車へのハンドサインや気配り、その意識描写のいちいちが、これ絶対乗ってないと分からんやろ、という表現ばかり。
この辺、別にストーリーのkeyではないし、自転車乗り以外にはただの感覚的な描写として通り過ぎていくんだろうとは思うけど、こういう表現がやたらと多いのだ。いったい作者が何を意図してこれだけ細かい部分に拘ったのかは不明だが、この抑えきれない作者の自転車愛、これだけで自転車乗りとしては藤井太洋に親近感を抱くはずw。

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も一つ余談だけど、自転車小説として有名な『サクリファイス』三部作(『キアズマ』も加えると4部作)の作者/近藤史恵さんの著者近影などを見ると、失礼ながらまずロードバイクなんて乗ったことないだろうなと思うのだが(←ほんと失礼だな)あれはあれで乗ったこともないのによくあれだけリアルなプロトン内の心情描写やドラマティックな描写が出来るもんだと、プロの作家さんの凄さを感じる(^^;;


自転車関連といえば、前から観たいと思っていた映画"プレミアム・ラッシュ"をようやく一昨日に、観た。ちょうど日本国内でノーブレーキ・ピストが(そして一般的には混同される形でスポーツ自転車全般が)白眼視されていた時期だったので、これは劇場公開されなかったのも納得だわね笑。疾走感ある画面展開は好みのタイプだったけど、作品としては平凡。メッセンジャーのリアルな実態が描かれているわけでもなく(むしろ表面上の上っ面しか描かれていない)それも含めてストーリー展開がペラッペラだった。ジョゼフ・ゴードン=レヴィットは好きな俳優だから最後まで見れたけど。。


今朝は渦ヶ森Runの予定で起きた。昨晩、いったん寒さが緩んだように感じたのだが、起きてみると空気がかなり冷え込んでいて寒い。。例によってトレオフにする理由を考え始めた思考をシャットダウンして、着替えて出発。渦ヶ森はやめてジョグで。ただ走り出してみると、思いのほか脚が軽い。なので山幹往復のペース走に変更。これだったらちゃんとスピード走用のシューズ履いてこればよかったな、と思いながら、キロ4分強をイメージして10km。最後までフォームはぶれずしっかり動いており、呼吸のほうも余裕がある感じ。ゴール後、これでAve.4:00/km切れていれば、、、と少し期待しながら時計を見るとAve.4:06/kmと遅すぎ。。そら呼吸も楽やわ、と思った。言い訳要素はシューズぐらいしかなく、それだってそこまで関係なさそう。スタートまであと2週間を切った別大マラソンに不安が募るね。珍しく今日の午前中は強烈な眠気に襲われたけど、睡眠が足りてないのか?そういえばここ何日か、寝る前に読んでる本が福澤徹三/廃屋の幽霊という怪奇ホラーで、この人のは心理的な不安と恐怖が同居していてかなり圧迫感があるのね。単純なワタクシはこれのせいで連日イヤな夢見て睡眠が浅くなってる自覚はあるw。やめればいいのに、でも面白いからついつい読んでしまう、読ませてしまう罪な作家さん。
| かっつん | 21:15 | comments(0) | - | pookmark |
偽りのサイクル 堕ちた英雄ランス・アームストロング


2段組500頁と結構なヴォリュームだったが、台風の一日を利用して一気に読んだ。自分はまだハミルトンとコイル共著の『シークレットレース』は読んでいないのだが、本書はアメリカ人ジャーナリスト/ジュリエット・マッカーが、当時この世界のトッププロの間に蔓延していた違法薬物による気が滅入るような汚染の実態を、ランスと関わりのあった多くの人間たちの証言、あるいは彼自身へのインタビューも含めて追求していくというスタイルで書かれている。
 

違法薬物の摂取を「他のメンバーもしているのだから当然だ」「チームで夕食をとるのと同じ」ように平然と続けながら、あるいはチームのみならずサイクルロードレース界の絶対的な支配者として、自らのをアシストする仲間にも同様のドーピング・プログラムに従うことを脅迫し強制し、加えてそれを「もし世の中が、俺がドーピングしたことでツールに勝ったと思ってるのなら、馬鹿としか言いようがない。俺はいかさまなんてしていない」「スタートラインに立つ200人の選手全員が、ルールを破っていた」と心から信じ公言して憚らないアームストロングという人間の傲岸で攻撃的な性格は、これまで彼の人となりについてほとんど知らなかった自分にとってはなかなかに衝撃的であった。そして何よりも、まるっきりマフィアの麻薬取引のような高度に組織化された薬物摂取の実態には言葉を失う。クリーンな選手はこの世界では絶対に勝てない、と誰もが信じてやまないほどに、多くの選手が違法薬物を接種するか、あるいはこの世界を去るかという二者択一を迫られながら「押しつぶされるようなプレッシャー」に屈してそれらを体内に入れていく。こんなに酷い話はない。
 

アームストロングのドーピングは、ヨーロッパのトップ選手の間に軍備競争を生じさせた。どのチームも、アームストロングがさまざまなドーピング手法を使っていることを知っている。もちろん、血液ドーピングをしていることも。レースを公平な競争の場にするためには、アームストロングだけに有利な状況で走らせるわけにいかない。自分のためにもチームのためにも、ドーピングをしなければならない。
 

周知のとおりランスは、その絶対的な名声と築き上げた財力を巧みに利用しながら、自己に関わる数々の訴訟を勝ち抜き、切り抜けてきた。しかし彼によって「人生を破滅させられた」と感じていた複数の人間たちの"執念"としかいいようのない訴追によって、最終的に彼は過去に得た全ての名誉とその富のほとんどを失い、現状ではスポーツ界から永久追放されることになった。
 

「奴らは有名人である俺を捕まえようとしている、そうすれば、自分たちの存在意義を証明できるからだ。まったく下らない。茶番もいいとこだ。そう思わないか?」
 

ランスが長きに渡って多くの人を欺き裏切り続けた罪は大きいと思うが、同時に、それまで彼の名声に群がり、甘い汁を吸ってきた多くの人間たちが、形勢の不利を悟るやさながら難破船から逃げ出す鼠のように彼から離れ、あるいは手のひらを返して彼をバッシングし、悪いのは全部あいつだ!我々は騙されていた!となるのはこの話に限らないが、どうなのかなとも思う。そして、ランスが言うところの「USADAは大物を捕まえて手柄を立てようとしているだけであり、自分はそのための生け贄になったのだ」という点は、ある部分では事実なのかなとも感じた。サイクルロードレース史におけるこの暗黒の部分の罪全てを、自転車競技のすべての罪をランス一人が背負わされるような図式は公平でないようにも見える。
 

「朝、目を覚ます度に、その日一日、打ち込めるものが何もないことを思い知らされるような人生には耐えられない。僕にとって、トレーニングと競争こそが生きがいだ。僕は楽しいからトレーニングをするんじゃない。そうしなければ試合で勝てないからトレーニングをするんだ。僕は、健康を保つという目的のためだけにトレーニングはできない。レースに出ることがわかっていなければ、トレーニングができないんだ。スポーツは僕の人生のすべてだ。小さいときからずっと試合に出続けてきた。僕はレースがなければ生きていけない。お願いだ。どうかそれを分かって欲しい。」
 

アームストロングは、かつてのアメリカ人たちが信じたような聖者でもスーパーヒーローでもないが、上記の彼の言葉は本書のタイトルCycle of Lies(嘘の輪)にはまりこまない、たぶん真実なんだろうなと思う。



夕方、帰宅してからランへ。たぶん初めてのインターバル的なことをした。2kmの全力走を2本+ジョグ。だいたい3:30/kmで心拍は176あたり。レース用シューズで、下がマッドなコンディションでなければあと10秒ぐらいは短縮できると思うけど、逆に言えば今はそのぐらいが限界。帰りに住吉川沿いを走ろうかと思ったら、増水した濁流でいつも走っている河川敷が水没していた。

| かっつん | 21:30 | comments(0) | - | pookmark |
平山瑞穂/マザー


小学館『きらら』誌上で連載された「理想の人」を改題、加筆改稿した2010年刊行作

平山氏といえば、不条理が幻想を纏って浮遊する白昼夢めいた『ラスマンチャス通信』あるいは『全世界のデボラ』のような作品が印象的だが、一方では『忘れないと誓ったぼくがいた』に代表されるような、大崎善生ばりのセンチメンタル・ストーリーも多く書いていたりと、なかなかその作風を量りがたいところのある作家さんである。

今作を大別すると後者寄りになるのかな?実に意味ありげな"マザーとの別れのシーンから導入される物語は、ある人の「記憶の中の人」を軸として回り出す。夢の中の景色めいて曖昧ながら、身の回りに残る「確かにその人が存在していた」という痕跡。その小さくも確かな痕跡を集め辿っていくうちに、明らかになっていく一つの"世界を変えていく装置"の存在。

人の「記憶」という領域を素材に持ってきているのは面白いのだが、それを改変してしまうという肝心の"装置"にまつわる設定がどうにも弱い。そのため結局は「失った、あるいは失ってしまうかもしれない記憶や人」をネタにした人間ドラマみたいなところに終始してしまっており、『ラスマンチャス』のような混沌とした深みを見ることは適わずちょっと不完全燃焼。


『ラス・マンチャス通信』の感想は→コチラ
『忘れないと誓った僕がいた』の感想は→コチラ
『全世界のデボラ』の感想は→コチラ

| かっつん | 22:08 | comments(0) | - | pookmark |
岩本能史/非常識マラソンメソッド ヘビースモーカーの元キャバ嬢がたった9ヵ月で3時間13分!


売るためにキャッチコピーは大切よ、ってなわけだが、目を引くキャッチを3つも4つもも並べてしまったこのタイトルは、逆に購買意欲を削ぐのではないか?と思ったり。しかしまぁ、そんな「エェー」ってタイトルからすると中身のほうは良い意味で実践的な手法を提示しており、初心者が一段次のステージへ進むためになかなか即効性がありそうなメニューが紹介されている。

フォームとしては、骨盤を立てた腰高スタイルで、大腿四頭筋やハムストリングスを中心に用いる走法を推奨。具体的なトレーニングメニューとして「峠走」の利点を繰り返し書いている。また、走力の向上をチェックするため定期的に取り入れるインターバル走についても、フルマラソンの目標タイム別に具体的なタイム設定が書かれてある。個人的にも、上述の峠走については短期でかなり高い効果が得られるんじゃないかと思った。もちろんめっちゃしんどそうだけど。

ただ、自分の感覚を基準に語らせてもらうならば、ここに書かれているそうしたトレーニングを行うためには、最低でも月間150km以上走っている、フルマラソンサブ4レベルの人からじゃないと厳しいのでは?と思った。というのも「坂道を全力で駆け下りる」とか「踵は固定して着地の衝撃をそのまま反発力に生かすフォーム」なんてのは膝周りの負担が相当大きそうなので、その辺の筋肉が鍛えられていない段階でいきなりそれをやっちゃうと、結構な確率で故障するんじゃないかしら、と思う。先のようなキャッチで釣るならば、準備運動やクールダウンの重要性について少しぐらい書いておいてほしかったなーと、ちらと感じた。しかしある程度走れるようになってきたならば、こうしたインパクトの強いメニューは、先に書いたように短期間でステップアップするためにかなり有効であると思う。

| かっつん | 22:28 | comments(0) | - | pookmark |
高千穂遥/ヒルクライマー


ロード乗りの中でも、坂を見ると登らずにはいられない「ヘンタイ←(最大級のほめ言葉)」気質な人たちをヒルクライマーと呼ぶが、そんな(一般的に見れば)十分にマニアックなフレーズを冠した自転車小説、である。

なかなか、印象的な導入部だ。かつて体育会系でならしたものの、中年の域にさしかかり、多忙を言い訳に増加する体重、低下する体力の波に流され始めていた一人の男が、ひょんなことから長野県の高地で目にしたヒルクライムレースに衝撃を受け、その世界へのめり込んでいく。それまで全く運動していなかった人間が、自転車に乗り始めてから見違えるような「アスリート」へと変貌していくというパターンは、ふだんblogや各種メディアにおいて少なからず目にする展開であるが、本書はその過程を追うわけではない。続く第一章からは、若くして病没した友人のロードバイクを受け取った19歳の若者が、それまで打ち込んでいたマラソンに代わって、ロードバイクの世界へ本気になっていくサマが主体に描かれる。小説の構図としては、その若者が、今や日本のヒルクライムレースのトップに君臨するまでになった序章の男へ挑むという形を成している。

レース、あるいはトレーニングの描写などは、実際その辺りで走っているローディーならニヤリとしそうな具体性があって面白いと思うのだが、反して妙に小説チックというか、例えば生活の全てを自転車に捧げるようになった男の家庭崩壊のサマや、その男の娘と先の若者が恋愛関係に陥ったりするなど、自転車以外の部分でヘンにドラマティックな設定を持ち込もうとしているところがどうもウマくないというか、せっかくの熱に水を差しているように感じた。

| かっつん | 22:21 | comments(0) | - | pookmark |
篠田節子/聖域

94年刊行の長編作。大手出版社に勤める実藤は、ある日退職した同僚の書類を整理する中で、「水無川泉」の名で書かれた未完の小説原稿『聖域』を目にする。8世紀頃の東北地方を舞台に、土着的、呪術的な磁場が渦巻く大作の片鱗を見せるそれに見せられた実藤は、その作者を見つけ出し小説を完成させたいという考えに憑かれ始める。しかし作者を追う中で、過去にその作者に関わった人間の多くが、破滅的な末路を歩んでいることがわかりはじめるのだが・・・

関わったものを死、あるいは狂気へと誘う文章という点で『川又千秋/幻詩狩り』を髣髴とさせるが、終盤にかけて否応なく高まるその「言葉」に対する期待が、結局は肩透かしの幻想として終わってしまうように感じるところまで、なんだか非常に似ているように感じた。思うに小説の中で「人の一生を左右するような小説、文章」を出現させることが出来るのであれば、そもそもその「小説の中の小説」を本体として書けばいいのであって、でないからには、やはりそれは小説の中のキーアイテムの一つにしかなれないモノだということか。濃密に疾走する導入部から、土着的な風俗や新興宗教まで絡めながら、謎めいた作者のディティールが浮かび上がらせていく中盤あたりまではかなり引き込まれた。それだけに、先に述べたように着地の弱さが余計に気になった、そんな作品。 
| かっつん | 22:08 | comments(0) | - | pookmark |
吉岡利貢/毎日長い距離を走らなくてもマラソンは速くなる!月間たった80kmで2時間46分! 超効率的トレーニング法


心身ともに不調の谷間へ落ち込んでいた昨月末、期せずこんな本を読んでいた。

本著の要旨としては
.肇譟璽縫鵐阿砲いて日本人に顕著な「距離信仰」の問題点を挙げ
▲泪薀愁鵑防要なパフォーマンスを向上させるためには、高負荷×短時間のトレーニングこそが有効と説き
その一例としてバイク×ランのクロストレーニングを提唱している。

まず,砲弔い討蓮市民ランナーレベルでは、週64km、月間走行距離が240〜250kmを超えると故障が増えるという報告を前提に、我々のような素人ランナーが「距離」を基準にトレーニングをすることの「非効率」を説いている。
続いて△任蓮▲薀鵐縫鵐哀僖侫ーマンスを決める身体要素として1.酸素摂取量2.無酸素性代謝閾値3.ランニングエコノミーを挙げ、それぞれがどのように機能し、またそれを向上させるためにはどういったトレーニングが有効かを検証する。そしてにおいては、そうしたランニングに必要な機能・筋力はバイクトレーニングによっても効果的に補完できると主張する。事前にAmazonの書評などを見る限りでは、本書のウリはなのだと思っていたが、実際読んでみるとこの部分についてはそれほど突っ込んだ記述はないように感じた。なによりも著者の力点は、「距離信仰」の非効率・不合理性を説くことに置かれている。例えば仕事の状況や体調などで練習できる日数は毎月変わります。それなのに月間走行距離の達成に執着すると、月末の走り込みで帳尻を合わせるといったトレーニングの本質を外れた行動に走ってしまいます。といった記述には個人的に深く頷ける部分があったし、また著者がいうLSDトレーニングの否定(正確には強度の高いポイント練習と切り離されたLSDの否定)についても、これまで主に時間的な非効率性からLSD(キロ7〜9分で3時間程度走る)をしてこなかった自分としては、それなりに説得力のある主張だと感じた。

ただしこの辺は、特段目新しい主張ではないというのも事実で、これまでこの手の本を何冊か読んできている人にとっては、その実まったく得るところがないかもしれない。その面で、自分としてものクロストレーニングの具体メニューが(いちおう、章の半分程度は割いているのだが)ややアッサリし過ぎているようには感じた。加えて著者は中学期から陸上畑を歩んで(走って!?)きた「土台」がある人(箱根駅伝を目標にトレーニングしていた、書いてるぐらいなので、そのレベルは推して測るべし)なので、単純に30歳40歳50歳を手前に長距離走に目覚めた一般市民ランナーが誰でも"月間80kmのトレーニングでサブ3を達成"できるわけではない、ということも一応申し添えておきたい。速く・強くなるためには必ずどこかで「苦しい」思いをする必要があるが、それをいかに効果的/効率的に組み込んでいけばいいのか、そのための基本となる考えを自分なりに確立していくにあたって、個人的にはなかなか有用な一冊だと感じた。気になった箇所は何度か読み返してみたい。

| かっつん | 21:53 | comments(0) | - | pookmark |
津原泰水/廻旋する夏空:クロニクル・アラウンド・ザ・クロック


人生とは、自分に相応な宿屋を思い知るための旅だ。

第2部、開幕。ここに来て登場人物たちが一気に躍動し始めた。前作を「各人物らについてのお触り程度」と書いたけど、いや実際はまだまだ相当な引き出しがしまわれたままであった、というのが今回わかる。たとえば主要人物の一人、向田むらさきという女の子。彼女は「絶対音感」という特殊な能力を持つ一方で、学校という空間に大きな拒絶反応を示し不登校状態なのだが、そのきっかけとなった「事件」らしきものが所々で匂わされる。が、それがハッキリと明示された箇所は無い。そしてそれは、今後明らかにされるかもしれないし、永遠に明かされないかもしれない、ということが、巻末あとがきに記された本作の特殊な創作方法から推測される。物事の、人々の、表の顔、そして裏の顔。常に何かが隠れている「物語」のピースが織り成すセッションは、スリリングで危うい繊細さと、乱暴な熱狂の螺旋を描き展開する。
津原氏が描く、独特の「斜め感」を持った人物たちは相変わらずとても魅力的なのだが、加えて今作では素直に、「音楽」あるいは「バンド」といったものがもたらす昂揚も小説の核たる熱気を放っている。大好きな作家が「音楽」を書いてくれる、こんな幸せなことって滅多にない。願わくば次で終わりだと言わないで、閉じられたままの抽斗を全部開けちゃうぐらいの勢いで展開してほしいなー。


『綺譚集』の感想は→コチラ
『ブラバン』の感想は→コチラ
『ピカルディの薔薇』の感想は→コチラ
『ルピナス探偵団の当惑』の感想は→コチラ
『たまさか人形堂物語』の感想は→コチラ
『瑠璃玉の耳輪』の感想は→コチラ
『少年トレチア』の感想は→コチラ
『爛漫たる爛漫:クロニクル・アラウンド・ザ・クロック』の感想は→コチラ

| かっつん | 23:11 | comments(0) | - | pookmark |

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